修業時代の宝物
2007年07月22日
「料理はどこで勉強したのですか?」。
吉田屋の料理は多国籍に及ぶ、それで度々同じ質問を受ける。私のベーシックは京都生まれの母がつくるいたって普通の和食、それに時々混じる日本流の洋食。小さな頃から料理をすることが日常の景色だった。人一倍食べることに興味があったので大学生の頃にはイタリアンや中華、タイ、ベトナム料理を自己流でつくれる様になってたかな。
いろいろな国の料理を独学で作りだしたのだけれど,どうしても手を出すことができなかったのがフランス料理だった。フランス料理はレシピを読み解くだけでは再現できなかった。それはなぜか?その答えを探すためフランス料理店で働くことにした。
そこで働きだしたときに描き始めたのがこのノート。
これが私のお宝、クロッキーブック。
オーダーは全てフランス語で書いてフランス語で伝える。学生時代2年間もフランス語を選択していたのに前々役立たず、一からやり直し。
ある月のディナー,フランス語と日本語併記。ペンで線書きして色鉛筆で着色。
ノートに穴をあけてレシピや盛りつけの進行の手順を書き込んだ。
シェフはとても厳しい人で同じことを三回言わせたらスタッフはクビ。メニューも毎月変わる。私は必ず小さなノートにすべてを書き込んで忘れない様に何度も復習した。
いろいろ書き込むのでこんな風に穴をあけた。
こうやって一度すべてを絵にしてみると頭の中にビジュアルとしてインプットされるので仕事の現場でもすごく役に立った。
吉田屋本の帯のところで使ったイラスト。
1年ちょっと働いた頃には100ページはあるノートがいっぱいに、その頃にはフランス料理のつくられ方が極めて化学的であることを身を以て知った。食材、温度や時間を管理して様々な化学反応をおこす。そして最も美味しいところでその反応を止め供する。本を読んだだけではそれを正確には実践できない、キッチンでつくられる品々をよくよく観察するのがなによりも大事。フランス料理では食材が見慣れないのでその化学変化の起き具合がよそ様のことように思える。でも和食を作るときにもそんなことは山盛り起きていて改めてそれを突き放して考えたりはしないので特別なことにならないだけ。よそさんを見て改めて和食の面白さも教えられた。
今は携帯やデジカメで何でも記録ができる様になって私もその恩恵を受けている。デジタルで全てが処理できるので写り具合が即座に確認できる。たくさん撮って簡単に捨てるなどというフィルム時代には考えられなかったこともできる。ほんとにすごく便利!。
でもそのお手軽さが時として観察という行為の邪魔をする。
時には人力で緊張感をもった観察をしたい、
よく見て、よく観て,よく視て、
頭の中にその画像を焼き付けて描く。
それが今は大事な宝物になった。